2024年7月に発売された完全ワイヤレスイヤホン「EarFun Air Pro 4」。VGP 2024 SUMMERのノイズキャンセリングイヤホン(1万円未満)部門で金賞を受賞している、通常価格が9,990円と、アンダー1万円の価格帯で高い評価を受けているワイヤレスイヤホンだ。
かつて自腹購入でEarFun Air Pro 3の記事を書いているが、こちらはEarFun様に製品提供をいただいた。製品仕様や試聴インプレッションなどを紹介させていただく。
Qualcommのフラッグシッププロセッサ「QCC3091」搭載なのにアンダー1万円!
Air Pro 4の特徴は何と言ってもQualcomm社のBluetooth チップ「QCC3091」を搭載していることだ。前世代のAir Pro 3がミドルハイ・アッパーミドルの「QCC3071」だったのが同世代のハイエンドチップにアップグレードされている。
これによってLDACやaptX Adaptiveといったハイレゾ相当ワイヤレスオーディオだけでなくCDロスレス品質のaptX Losslessや2台マルチポイント、空間オーディオ、LE Audio、Auracast対応などの先進的機能を実装する。
公称最大50dbの強力なアクティブノイズキャンセリング(ANC)、外音取り込みにも対応し、スペックを羅列していくだけでとにかく優秀なコストパフォーマンスであることが瞭然だ。
ポリシーを感じるブランドのサウンドキャラクター
サウンドチェックには32bit/96kHzのLDACで接続するPixel 8aとSnapdragon Sound対応のEppfun AK3040Pro Maxを使用した。EarFun アプリからイコライザーの調整が出来るが、デフォルトの状態で試聴している。
実機を触ると真っ先に気付くのはやはりANCの優秀さ。換気扇やサーキュレーターの音、電車のゴーッという稼働音、人並みのガヤ、いずれもきちんと遠ざけてくれる。1万円以下の完全ワイヤレスイヤホンもここまで来たかと感心させられる。自腹購入のRedmi Buds 5 Proは公称最大-52dbだが、それと遜色ない。ANCの強さを定量的に表現するのは難しいが、カタログで最大-30dbとか-35dbの製品群より明らかに強い。
サウンドキャラクターはブーミーでウォーム。ゆるめの低音が量感を演出する、臨場感重視の印象を受ける。高い音も潰れることがなく、通りがよい。低音とボーカルが際立って活き活きと楽しい音を鳴らしてくれる。歪みもほとんどない。
ドライバサイズが11mm→10mmに変わるなど、同一ラインでも完全に同じ筐体ではないはずだが自腹購入のAir Pro 3も似たようなサウンドキャラクターだった。Harman(JBL)やBOSE、Beatsに近いチューニングだと思った。
Earfunは2018年に産まれた新興ブランドで、コストパフォーマンスに優れた製品を作ることは認知していたが、あらためて2世代に渡って同一ラインの製品を触ることでちゃんと「これが私達の考える良い音です」というポリシーがあってオーディオ製品を作ってるブランドなのだな、と感じる。
ケチをつけられる部分、ほぼなし。
カタログスペック的にも、実際の使用感にも正直ほとんどケチをつけられるところはない。価格帯的に無理があるが、会話検知での外音取り込みモードへの自動切り替え機能が無いこと、何かしらの「探す」エコシステムからバッテリーケースを鳴らす機能がないことを除くと、ほぼほぼありとあらゆる完全ワイヤレスイヤホンの機能が網羅されていると言っていい。
あえて粗探しをするなら、LDACと2台マルチポイントが排他動作であること、コンパニオンアプリの日本語翻訳でほんの僅かにあやしいところがあるくらいだろうか。
アプリはノイズキャンセリングや外音取り込みのモード切り替え、詳細なタッチコントロールのカスタマイズなど機能が豊富。オーディオ品質の切り替えや、LE Audioモードなど排他動作の要素が複数あるので、それぞれの機能がどのような意味を持つのかよく分からない、混乱するという人はいるかもしれない。
ショートスティックが耳垂の方に飛び出すデザインは身に着けたまま顔を洗うとか、特定の状況によっては邪魔になる可能性はあるが、これはそもそも製品形状を見れば分かることだ。コンパクトで飛び出しが少なく、装着感が良いものを望む場合はもっとカタログスペックを落としてよりデイリーユースに振った設計思想の製品を選ぶほうがよい。いわゆる「寝ホン」用途にも不適当だろう。
エントリーでも、これがゴールでも
アンダー1万円で強力ANC、フラッグシップのチップ搭載でコスパ最強!といっても本製品の価格は1万円に近いし、オーディオにあまり関心がない人にとってはそれなりに勇気がいる値段かもしれない。現代は単純にワイヤレスイヤホンが欲しいだけなら、ダイソーなどのディスカウントストアでも手に入る。程度はともかくANCを搭載する製品も2~3000円台で買えてしまう。EarFunの中でももっと安価な製品は存在する。
そんな中、この製品に関心を持つのは2~3万円オーバーの有名メーカーのフラッグシップには手が届かないけど"少しでも良い音を聴くためにハイレゾ相当オーディオやロスレスオーディオに関心がある"、"少しでも強力なノイズキャンセリングが欲しい"という人だと思う。
そういう「今のところ沼に浸ってないけど、ちょっと良いイヤホンが欲しいくらいには興味がある」という人に安心して勧めやすいのもこの製品の良いところだ。LDACとaptX Adaptiveに両対応のため、Qualcommのエコシステムに非対応のAndroid デバイスを使用していても*1ほとんどの場合、とりあえずハイレゾ相当ワイヤレスオーディオが利用できるはずだ。Google Fast Pairでペアリングをサポートしてくれるのも初級者には優しい。
その一方で、「これより上」を求めだすとそれこそBOSEやSONYのフラッグシップでも劇的に向上が体感できるほどのANCのグレードアップは望めない領域に到達しつつある。オーディオ伝送の品質についても、サウンドキャラクターの好悪はあれど既にCD品質のロスレスオーディオを実現しており、現在市場に「これより上」を望めるBluetooth オーディオ機器は存在しない。
全てにおいて完璧なイヤホンやヘッドホンは存在せず、人それぞれの好みが存在する以上これが完璧な答えと断言することはできないが、「これより上」を追求しだすと「オーディオ沼」にどっぷりハマることになるのは確実だ。
「EarFun Air Pro 4」は単にコスパが良いだけに留まらず、バッテリーが完全に摩耗して動かなくなるその瞬間まで末永く付き合っていけるポテンシャルを秘めた製品として、オーディオ沼の入口にも、ゴールにもなりそうだ。
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*1:残念ながらiPhoneやMacはハイレゾ相当ワイヤレスオーディオ非対応。WindowsはAlternative A2DP Driverの導入でLDACに対応させることが出来るほか、Qualcomm SoC搭載のCopilot+ PCでSnapdragon Soundが利用できる。