hikkie

気になる新製品情報やレビュー、ネットショッピング体験記、PCとモバイルのトピックス。

完全ワイヤレスイヤホンの選び方│Bluetooth Audio SoCを確認しよう

※当サイトは収益化の手段としてGoogle AdsenseやAmazon アソシエイトなどの各種アフィリエイト広告を利用しています。

完全ワイヤレスイヤホンの選び方

※本来ならばSoCではなくSiPと呼称すべき場合もありますが、SoCと一貫して呼称しています。
※本来ならばBluetooth AIoT SoCと呼称すべき製品もまとめてBluetooth Audio SoCと呼称しています。

完全ワイヤレスイヤホンは進化が目覚ましく、とても人気のあるガジェットジャンルのひとつです。

選ぶ基準と言ったら、ブランドストーリーのような情緒的価値、音質、価格、アクティブノイズキャンセリングやヒアスルーに対応することなどが重視されがちだが、中間部分が無線である以上、通信がきちんと安定するかということが一番重要だと思う。

通信がきちんと安定するかどうかはメーカーによるアンテナ配置、筐体の作り込みといった要素もあるがBluetooth Audio SoCという電波を受信し、複合する回路も重要になる。

最近の完全ワイヤレスイヤホンで使われるBluetooth Audio SoCはデジタル信号をアナログに変換する機能(DAC)やアナログ音声を増幅するアンプとしての機能も1つのチップに統合されている。

完全ワイヤレスイヤホンの中核となる機能を1つのパッケージで提供できるから、小型軽量化に有利でその分バッテリーも大容量にしやすく、サードパーティのオーディオメーカーからすれば参入もしやすくなる。Bluetooth Audio SoCを外販するチップベンダーからすると顧客の拡大が期待できる。

リレー方式と近距離磁界誘導から左右同時伝送技術へ

古い完全ワイヤレスイヤホンはスマートフォンなどの送信側機器に対して片側のイヤホンを「マスター」として接続した後に、もう片方の「スレーブ」側イヤホンに音声データをリレー式に伝送していた。この方式は無線伝送区間が増える上に、電波を妨害する水分を大量に含む人体の頭部が必ず間に挟まることになるため、通信の品質で問題を抱えることがあった。

こういった問題は当初、補聴器などで使われる近距離磁界誘導(NFMIとかMiGLOと呼ばれる)という技術で磁気通信に置き換えることで回避する手法が試されたが、これは実装に技術的な困難が伴い、Jabraのような元々補聴器を作っていたり、高い製品開発力を持つごく一部のメーカー以外は製品として実現することが出来なかった。

そこで提供されるようになったのが送信側機器に対して片側のイヤホンを「マスター」として接続した後に、「スレーブ」側イヤホンにマスターとは左右反対側の信号を傍受させる接続技術で、これを“左右同時伝送”と呼んでいる。これによって通信の遅延は低減され、安定性も向上が見込める。

傍受型左右同時伝送も送り手の性能を問う

Bluetoothバージョン4.2よりも前…つまり、Bluetooth4.0以前のバージョンのデバイスでは左右同時伝送が使用できません。(チップベンダによって実装は違うので使えるものもあるかもしれないが。)

iPhoneで言うと、iPhone 6sからBluetoothバージョン4.2、つまりiPhone 6以前の端末がBluetooth4.0以前となります。もう使っている人はほとんどいないと思いますが、Windows 7からアップグレードされ続けてきた古いノートPCとか、無線LANカードを搭載していないデスクトップPCなどを自作、購入したあとにBluetooth周辺機器を使用したいということで安価なBluetoothアダプタを購入されると、Bluetoothバージョンが4.0で左右同時伝送が有効になっていないことがあります。また、Bluetoothで使用されている2.4GHz帯周波数とUSB3.0以降で発生するノイズが干渉を起こしてまともに音楽再生が出来ない…なんてことも起こります。

「マスター」と「スレーブ」は不適切言語として置き換えが進む可能性が高い

現状では各種ICチップベンダの資料などでもマスターとスレーブという言葉を使われていることが多いのでそのまま使用しているものの、この言葉は主人と奴隷の関係を想起させるとして使わないようにという呼びかけが行われている。

日本語圏ではぶっちゃけ気にされないだろうが、今後は使われなくなっていく可能性が高い。プライマリ/セカンダリとかメイン/セカンダリーとか、ホスト/クライアントみたいな呼び替えが提案されているが、現状では統一した呼称は存在しないようだ。

コーデックとは

ものすごく大雑把に抽象化して言うならばBluetooth Audioは「データのトンネル」を通って送り手から受け手へと伝送される。生の音声データをそのまま通そうとすると、データが大きすぎるせいでトンネルを抜けられなくなってしまうので、ダンボールにつめて小分けにしてデータを輸送する。

そのダンボールにつめて小分けにして送り付け、開封作業をするまでのマニュアルを「コーデック」と言う。マニュアルによって作業員の作業内容(アルゴリズム)と作業時間(遅延)と時間内にどれだけのデータ量を送り付けるのか(ビットレート)が変わる。ひとつのダンボールにまとめてつめて送り付けるのか、小さなダンボールに分割して梱包した順にとりあえず送り付けるのかで、開封する側の待機時間も変わってくる。

必ず対応しなければいけないとされているSBC、事実上は標準コーデックとなっているAAC、AndroidやWindows向けのaptXがCD相当の音質で再生できるとされ、aptX AdaptiveとaptX HDとLDACがハイレゾ相当の音質で再生できるとされている。

より低遅延のコーデックとしてaptX LLというものもあるのだが、これはスマートフォンやパソコンのWi-Fiで使われているアンテナを共有することが出来ず、専用の送信機が必要になる上に、完全ワイヤレスイヤホン向けのBluetooth Audio SoCも通常対応していない。

現行のiPhoneが対応しているコーデックはAACが最上位なので、音源がハイレゾだったとしてもBluetooth伝送区間で必ず音質を劣化させられることになる。Androidは最終的に端末のベンダーによって実装するかどうか判断されるのだが、最近の端末なら基本的にaptX HDとLDACへのエンコーダが無償提供されているので、(イヤホンやヘッドホン次第で)ハイレゾ相当のBluetoothオーディオ再生が楽しめることになる。

音楽再生の音質は基本的にiOSよりAndroidが有利

外付けのUSB-DAC(ヘッドホンアンプ)を使用する場合を別として、基本的にiOSとAndroidどちらが音楽再生の音質に優れているかというと、Androidのほうが有利です。
LightningケーブルとType-Cケーブルによる有線接続、Bluetoothによるワイヤレス接続のいずれの場合をとっても、です。

USB-DACを使用しない有線接続の場合、LightningとType-Cいずれの場合も、端子付近やケーブルの途中に用意されたDAC兼アンプを使い、デジタル信号をアナログに変換します。しかし、LightningはiPhoneの仕様により最大48kHz/24bitが上限。Androidの場合は制限がなく、DACチップ次第で192kHz/24bitなどのより多いデータ量に対応できます。

Bluetooth オーディオ再生の場合、iPhoneはコーデックの違いに関わらず最大44.1kHz/16bitどまり。Androidは96kHz/24bit(LDAC)などそれ以上のデータサイズを扱えます。カジュアルに音楽を楽しむだけなら気にする必要はありませんが。

「マルチペアリング」と「マルチポイント」とは

マルチペアリングとは1台のBluetooth子機に複数のBluetooth親機とのペアリングを登録することが出来る機能のことです。マルチペアリング非対応のBluetoothイヤホンだと親側の機器をスマートフォンからパソコンに切り替えたい場合、ペアリングをやり直さなければなりませんが、マルチペアリング対応であればペアリングをやり直す必要がありません。

複数のBluetooth親機と同時に接続する機能はマルチポイントと言います。マルチポイント対応のBluetoothイヤホンならば、スマートフォンとパソコンに同時に接続して、どちらか好きなほうで音楽を再生したり、通話を受信することが出来ます。

マルチペアリング対応のBluetoohイヤホンは複数のペアリング情報を記録できるけれど、同時接続はできません。同時接続が必要な場合は、マルチポイント対応のBluetoothイヤホンを選ぶことになります。

通常、市場に流通している完全ワイヤレスイヤホンでマルチペアリングに非対応の製品は存在しないと思われます。逆に、マルチポイントに対応していると謳っている製品は最近少しづつ増えていますが少ないです。

ゲームモードとは

元々は台湾PixArtのSoCが真っ先に提供を始めたはずだが、「ゲームモード」や「低遅延モード」はQualcommやAiroha、Bestechnicなどの他社SoCでもファームウェア更新などで提供が進んでいる。

基本的には無線区間を通過する際にデータを圧縮する時のビットレートを落とし、伝送するデータの量を根本的に削減することで遅延を減らしている他、音途切れを減らすためにかけているディレイを削減することで低遅延を実現していると考えられる。有効にすると音質が低下したり、通信環境の悪い場所で音途切れが発生しやすくなる可能性がある。

Apple AirPodsのApple W1/H1

もちろん音質や着け心地とかの要素もあるので暴論ではあるのですが、もしもiPhoneやiPadなどのApple製品で使用する完全ワイヤレスイヤホンを購入するときに迷ったときは、とりあえずAirPodsシリーズから選んで買えばいい。左右同時伝送に対応するだけでなく、iPhoneで使用する場合の付加機能もあるし、使用可能な音質コーデックなどもApple製品をターゲットに提供されている。

もしもAirPodsを使って製品に不満を持つなら、今度はその不満を改善してくれる製品を探せばいいのだから、製品を選ぶ上での指標にもなる。

QualcommのQCC30xxシリーズ・QCC50xxシリーズ

国内販売されているAndroidスマートフォンの大半で採用されているSnapdragonシリーズで知られるQualcommも完全ワイヤレスイヤホン向けのBluetooth Audio SoCを外販している。

QCC3020 / 3026は一世代前のエントリー / ミドルクラス向けBluetooth Audio SoCで、傍受型の左右同時伝送技術に対応していない。TrueWireless Stereo Plus(TWS+)という左右完全分離伝送技術を採用しているのだが、これは親機側にチップセットレベルでの対応が必要な接続で、更に有償のオプションを有効にしないと同じチップセットを使用している端末でも提供されない。なので国内販売のスマートフォンで対応しているのはAQUOSやXperiaの一部の機種のみで、ごく一部の端末と接続した場合を除くとリレー式の伝送となってしまう。

とは言え左右完全分離伝送には少なからぬ利点がある。従来型のリレー方式や送り手を問わない傍受型左右同時伝送においては1つの電波トンネルで2ch(つまりステレオの)信号を伝送しなければならなかったため、通信の安定性とビットレートを天秤にかけ、ギリギリのせめぎ合いを行なっている。しかし完全に分離した2つの電波トンネルでそれぞれ独立して1chずつデータを伝送すればいいので、接続が安定するだけでなくビットレートを向上させ音質を上げる余地も生まれる。

同じ世代でハイエンド製品向けのQCC512xシリーズというBluetooth Audio SoCもあるのだが、これも伝送技術に関しては同様である。コンテンツに合わせて聴感を損なわないギリギリの範囲でビットレートを自動的に上げ下げし、遅延が問題にならないオーディオ再生ではより高い音質を実現しつつ、ゲームのようなシビアなコンテンツでは遅延を低減して通信の安定化も図ったaptX Adaptiveという音質コーデックに対応していて、その点においては通信の安定性に優れる場合があるのだが、これも送り出し側・受け手側の双方が対応している必要がある。

市場に出回っているQualcomm製Bluetooth Audio SoCとして最新世代のQCC3040 / 3046 / 5141は傍受型左右同時伝送技術のTrueWireless Mirroringに対応している。また、前世代で上位モデルのみの対応だったaptX Adaptiveもすべてのモデルで「実装可能」になった。(あくまで可能なだけで実装していない製品もたくさんある。)

もしも完全ワイヤレスイヤホンを購入するために製品を探していて、その製品がaptXコーデックに対応しているならば、(QualcommはaptXコーデックを他社製完全ワイヤレスイヤホン向けSoCがサポートすることを認めていない)その製品はQualcommのBluetooth Audio SoCを搭載している。その場合、製品に搭載されているBluetooth Audio SoCをチェックしたほうがいい。接続する親機との相性も関わってくるが、古い世代の製品を搭載した製品は通信の安定性、遅延において劣る可能性は高い。

台湾AirohaのAB155x、AB156xシリーズ

スマートフォンやタブレット向け低価格帯SoCで高いシェアを持つ、MediaTekのグループ企業であるAirohaは早期から左右同時伝送技術のMCSyncを提供し、音途切れの少ない完全ワイヤレスイヤホンを提供してきた。

すでに高い評価を受けているSONYのWF-1000XM3やTechnics(Panasonicのオーディオブランド)などがAirohaのBluetooth Audio SoCを採用している他、低価格帯の中華メーカー製品でも幅広く採用がある。WF-1000XMシリーズ最新機種であるWF-1000XM4もAirohaの最新のAB156xファミリを採用しているようだ。

中国・上海BestechnicのBES2300、BES2500シリーズ

中国・上海のBesTechnicは創業2015年と若い企業。左右同時伝送技術Low-band Bluetooth Retransmission Technology(LBRT)をサポートし、GoogleのPixel BudsやサムスンのGalaxy Buds2、OPPO、シャオミといったグローバルのトップメーカーたちに採用が増えてきている。それから、Anker製品も基本的にBesTechnicのSoCを採用している。

どちらかと言うと1チップ・ソリューションで必要な機能を提供するというよりはセンサーやプロセッサをペアリングしてメーカー独自の機能が拡張しやすいのが魅力。

主流から外れつつあるチップベンダ(Broadcom、Realtek、PixArt、PI、Cypress、Jerry、etc...)

Galxy Budsシリーズ向けにSoC(bcm43015)を提供していた半導体大手BroadcomはサムスンがGalaxy Buds2でBES2500に鞍替えしたことで新規の採用製品が途絶えているようだ。

イーサネットコントローラー、メディアコントローラーチップなどで知られるReatek製SoC(RTL8763、RTL8773)はAmazonのEcho Buds Gen2で採用がある他、ディスカウントストア(ようするに100均。100円ではないが)で販売されている製品で使用されている。ただし、傍受型左右同時伝送に非対応でリレー式伝送を使用しているため通信の安定性や遅延において問題を抱えている可能性が高い。

マウスやキーボード、CMOSなどのセンサーを提供するPixArt(Audiowise)も2019年にPAU1600シリーズ(PAU1626)でGRSという左右同時伝送技術、低遅延を売りにしたゲームモードを引っ提げてきて、Razerなどのゲーミングイヤホンで採用されていたのだが新規製品が途絶えてしまっているようだ。

新規の製品開発が途絶えてしまっていたり、技適による制限で国内で見かけることはあまりなかったりするのだが、PI、Cypress(インフィニオン)、Jerryといったチップベンダも完全ワイヤレスイヤホン向けのチップを外販しているはずで、名前を挙げていないベンダもかなり大量に存在する。

結局どれを買えばいいの?

最近は適当に製品を手にとってもほとんどは何らかの左右同時伝送技術に対応していて通信品質という点では基本的に安定しているものの、コンパニオンアプリの開発やオーディオのチューニングなどの製品開発が遅れてしまったメーカーが型遅れのSoCを積んだ製品を発売したり(この場合は良い音鳴らしたりするので悩ましい)、半導体不足のあおりを受けて安価でも性能が高い新しいSoCの調達が間に合っていない「負け組」企業が古いBluetooth Audio SoCを搭載した製品を型番だけ変えたり、コラボアイテムという形で新製品という体で売出しにかける様子も見受けられる。

音質に関してはなるべく実店舗で試聴して納得した上で製品を買いましょうと言うしかないのだが、オンラインで製品を購入することを検討しているのなら、客観的な情報は多いほうがいい。情報開示に消極的なオーディオメーカーも多いので調べるのは難しいが搭載しているBluetooth Audio SoCの情報もチェックすべきだし、オーディオメーカーやオーディオ系メディアもきちんと情報開示すべきだと思う。

Bluetoothの次世代コアバージョンとなるBluetooth 5.2から採用が始まる(ということになっているがOS側の対応も必要となるため今も使われていない。)Bluetooth LE Audioやその標準コーデックとなるLC3も今後の投入が予告されており、音声通話の品質がVoLTE相当に向上するなどの進化が控えている。

完全ワイヤレスイヤホンはリチウムイオンバッテリで駆動する以上2 - 3年も使えば電池がヘタってくる。少なくとも当面の間は、あまり高い製品を購入しても数年後にはあっという間に型遅れになっている製品ジャンルで、継続して購入していくことを考えるとどれだけの予算を投入するのかは悩ましい問題だ。最近は1万円を切るような比較的安価な製品でもANCやヒアスルー機能を提供するものも増えているし、必ずしも2万円とか3万円を超えるようなプレミアム製品を買う必要はないかもしれない。

参考・関連リンク

Test iOS and Android Audio Latency with Superpowered Latency Test App

QCC30xx Series | Bluetooth Earbud and Headset Chipsets | Qualcomm

Overview | QCC5100 Series | Bluetooth 5.0 Chipset for Headsets and Speakers | Qualcomm

達發科技股份有限公司(Airoha Technology Corp.)

BroadcomのBluetooth Audio SoC BCM43015(公式)

恒玄科技(Bestechnic)—Leading Supplier of Smart Audio SoC

Bestechnic BES2300 Bluetooth 5.0 Audio Chip Basic Floorplan Analysis | TechInsights

https://www.realtek.com/en/products/communications-network-ics/item/rtl8763b

Bluetooth classic / Bluetooth low energy コンボチップ - Qualcomm - マクニカ